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2019/11/30

【追悼/R.I.P.】”特殊メイクアップアーティスト”兼”映画監督”ライアン・ニコルソン(Ryan Nicholson)による”低予算”の血みどろスプラッター映画・・・渾身の初期三作品!~「ライブ・フィード/Live Feed」「悪魔の毒々ボウリング/Gutterballs」「ハンガー/Hanger」~


先日(2019年10月8日)・・・”特殊メイクアップアーティスト”兼”映画監督”のライアン・ニコルソン(Ryan Nicholson)が、若干47歳で亡くなられたという悲しい知らせがありました。映像特典とかで見たことのある本人画像は小太りだったのに、近影はほっそりしていたので「もしかして闘病とかしてるのかなぁ?」と思っていたんですが・・・まさか”脳ガン”で闘病していたとは。

ところで・・・ライアン・ニコルソンって誰ぞやという話であります。カナダ出身の”特殊メイクアップアーティスト”で、ハリウッド映画(「ファイナル・ディストネーション」「最終絶叫計画」「ブレイド」「リディック」など)や、アメリカのTVドラマシリーズ(「Xファイル」「アウター・リミッツ」「スターゲイト SG-1」「アンドロメダ」など)を担当・・・母国カナダではスプラッター専門の映画監督としても活躍しており、その手のマニアにはお馴染みの人かもしれません。

監督作品はどれも”低予算”・・・それも、その安っぽさがわかるようなクオリティー(主にビデオカメラでの撮影、台詞がアフレコなど)であり、基本的に映画館で公開されるということも殆どなく、基本”DVDスルー”なのであります。しかし、本職である特殊メイクアップアーティスト魂を発揮して、血糊多めのスプラッター描写に特化されており、過激なエロ要素や加減のない悪趣味さも相まって、一部のマニアからは「カルト映画」として称賛されているのです。
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ただ・・・映画的には”素人っぽい”(?)「クソ映画」でもあります。見せ場であるはずのスプラッター場面ではクローズアップすぎて被写体が構図からはみ出したり(おそらく特殊効果の粗を見せないため?)、アクションシーンの編集と構図がやけに雑だったり・・・あちらこちらに技術的な稚拙さが目立つのです。さらに、出演している役者の演技が絶望的に下手クソ・・・さらに使い古された”クサい”演出や台詞も加わって1980年代のスップラッター映画のようなチープさ満載なのであります。

ここから各作品のネタバレを含みます。


長編第一作の「ライブ・フィード(原題)/Live Feed」(2006年)は、イーライ・ロス監督の「ホステル」の舞台を中国に移したような設定で・・・5人の若者が、ポルノ映画館(売春婦が利用するための個室がある)で拉致されて残虐な方法で殺されていくというお話であります。この映画館を仕切っているのが中国人ギャングのボス(ステファン・チャング)で・・・惨殺される様子を別室のモニター越しで眺めたり、肉屋の調理人(グレッグ・チャン)に死体を調理させて食べるのが、彼の楽しみなのです。

個室にしけ込んでエッチには励んだカップルのリンダ(キャロライン・チョニャッキ)とマイク(リー・ティション)の前に、いきなり巨体の処刑人(マイク・ベネット)が現れて、マイクを刺殺して首を切り飛ばしてしまいます。リンダは無理やり蛇を飲み込まされて唇をホチキスで蓋をされた後、腹を切り裂くと生きた蛇が出てくるのです。

エミリー(タアイラ・マーケル)のボーイフレンドのダレン(ロブ・スカッターグッド)は、サラ(アシュレー・スチャッパート)とトイレの中でエッチに励んでいます。その後、一人になったサラは中国人ギャングの男たちに捕らえられて、縄で縛られた状態で刀で突き刺されて殺されてしまうのです。

各個室には盗聴カメラが仕掛けられていて他の部屋のモニターから見ることができるので、別室にいたエミリーは全てを目撃して恐怖に怯えています。そこに、調理されたマイクのペニスをギャングの手下が運んできて無理やり食べさせられるのですが、隙を見計らってエミリーは凶器を奪い男を滅多刺しにして脱出を試みルのです。しかし、怪しい白人男(テッド・フレンド)に捕まって、中国人ボスの元へ連れて行かれてしまいます。

このポルノ映画館に、中国人ボスを捜査中に拷問されて殺された日本の警察官だった兄の復讐に燃えているマイルズ(ケヴァン・オーツジ)が、一目惚れしたエミリーを追って乗り込んでくるのです。本作ではヒーロー役といったところなのですが・・・演じている日系人の男優さんが、異常な熱量で演じているわりに大根役者で、全然プロットが頭に入ってきません。また、見せ場となるべきアクションシーンの構図や編集が雑で、登場人物の立ち位置も、何が起こっているかも、よく分からないまま終わってしまうのです。

裏切りを知った処刑人に中国人ボスは首を捻られる拷問で惨殺されて・・・処刑人とマイルズの死闘はエミリーがとどめを刺すのですが、最後の最後にマイルズはギャングの下僕(コリン・フー)に殺されてしまいます。エミリーは警察官に助けられてパトカーで現場を去るのですが、そこに突如現れたのは命拾いしたボーイフレンドのダレン・・・パトカーに同席した彼にエミリーは冷ややかな視線と言葉をかけて本作は終わります。

他のスプラッター映画で観たことあるような場面や設定が繰り返し出てくるのは、監督やスタッフらの好きな要素を詰め込んだ結果かもしれません。実際に営業していたポルノ映画館で撮影したのは、セットを組む必要がないということもあったようですが、精液などで本当に汚れた内装であったことは、本作の怪しい臨場感にひと役かっています。そういう意味でも・・・”よく出来た”卒業制作のようでもあるのです。


長編二作目の「悪魔の毒々ボウリング/Gutterballs」(2008年)は、唯一日本字幕版が観られる(DVDレンタル)ライアン・ニコルソン作品であります。「あの”悪魔の毒々”シリーズが復活!」とトロマ映画のように宣伝されていますが・・・極めて”低予算映画”であることや”エログロ悪趣味”に満ちた作風などの共通点はあるものの、実際は無関係です。ボーリング場を舞台に、二つの不良グループの若者たちが、ボーリングバッグを被った殺人鬼に次々と殺されていくというお話で・・・1980年代のスプラッター映画にオマージュを捧げています。

清掃係(ダン・エリス)の計らいで、二つの対抗する不良グループはボーリング対決のため営業後のボーリング場にたむろしています。リーダーのスティーブ(アラスティア・ギャンブル)は、別グループのリーダーのジェイミー(ネイサン・ホワイト)が、リサ(キャンディス・レワルド)とエッチしたことを根に持っていて、ジェイミーのグループのひとりである女装のサム(ジミー・ブライス)にちょっかいを出したことをきっかけに喧嘩となるのです。リサは、超ミニスカートにノーパンで”割れ目”の覗かせるような”あばずれ”で、やたら気が強い女でもあります。リサは、スティーブの足にボーリングボールを落として、一旦は喧嘩を沈静させるのです。

皆が帰った後、忘れ物を取りにリサがボーリング場に一人で戻ると、そこにはスティーブのグループの男4人が待ち構えていて、リサはスティーブによって手荒に強姦されてしまいます。続いて、A.J.(ネイサン・ダッシュウッド)とジョーイ(ワデ・ギブ)によってもリサ犯されていたぶられるのです。躊躇して手を出そうとしないパトリック(トレヴァー・ジェンマ)に、スティーブはボーリングの”ピン”で犯すことを指示して、リサの股間は血だらけになってしまいます。

翌日・・・二つのグループは再びボーリング上に集まり、ボーリング対決が始まるのですが・・・スコアボードには誰なのか分からない「BBK」という名前があるのです。足を怪我して松葉杖をついたスティーブは、ジュリア(ダニエル・ムンロ)とハンナ(サラフィナ・バードュー)という二人のガールフレンドを連れて現れます。ビールを取りに行ったバーで、ジュリアはジョーイのグループのデイヴ(スコット・アロンゾ)といい感じなり、二人はトイレで69のポジションでやり始めるのです。そこにボーリングバッグを頭にかぶった殺人鬼が現れて、頭を押さえつけて二人ともお互いの性器で窒息死させられてしまいます。(んな馬鹿な!)

すると「BBK」のスコアボードに”ツーストライク”と表示されるのです。そう・・・「BBK」とは「ボーリング・バッグ・キラー/Bowling Bag Killer」の略なのであります!

女装のサムが、トイレに身繕いでやってくると、待ち構えていた「BBK」によって個室トイレに連れ込まれてしまいます。命乞いをするサムに、非常にも「BBK」はボーリングのピンをサムの喉に押し込んで殺してしまうのですが、それで終わりでなく・・・サムの男性器をパンティから取り出して、カッターで縦に切り裂くのです。このシーンは日本版DVDではモザイクだらけですが、オリジナル版で観ることのできる特殊効果は股間が縮こまルほどリアルになっています。

ジョーイのグループのベン(ジェレミー・ビランド)とシンディ(ステファニー・スチャッター)は、倉庫にしけ込んでエッチを始めるのですが・・・コンドームがないことに気付き、ベンはトイレに設置されたコンドーム販売機に買いに行くことになります。そこには、当然「BBK」が待ち構えており、ボーリングのピンで頭を殴打されて、ベンは殺されてしまうのです。倉庫に一人で残ったシンディの前にも「BBK」が現れるのですが、ベンがボーリングバッグをかぶっていると思い込んでいるシンディも、ボーリングシューズの紐で首を締められて殺されてしまいます。

ジュリアを探して館内をうろつくハンナは、ボーリングボールを両手につけた鉄の鎧で現れた「BBK」により頭を潰されて殺害・・・続いて、A.J.は「BBK」によって、ボーリングボールを磨く機械に顔を押し付けられて顔を削がれて無残な姿で殺されてしまうのです。次々と仲間の姿がいなくなるのを不審に感じたスティーブがレーン裏に行ってみると、そこには首を繰り落とされたジョーイの死体を発見・・・そこに「BBK」が現れて、スティーブをボーリングのピンで殴って朦朧とさせて、削って尖らせたピンでスティーブのアナルを犯した後、顔を滅多打ちにして殺します。

こんな事が起こっている中・・・ジョーイとサラ(ミホーラ・タージック)はボーリングのゲームを続けていルのですが、ボールリターンの機械からジョーイの生首が飛び出してくるのです。大騒ぎでボーリング場から逃げようとしますが、出入口にはチャーンがかかっていて外に出れません。ドアの外にはパトリックの死体が放置されているのです。

二人が地下室へ逃げ込むと、そこには殺された仲間たち全員の死体がディスプレイされています。そこに3人の「BBK」が現れて、正体を明かします。一人目は清掃係・・・前夜、強姦されたリサの父親だった彼は、スティーブのグループだけでなく、忘れ物を一人っきりで取りに行かせた仲間までを殺害することを計画したと告白するのです。そして、ジェイミーは、初めから計画を知っていたことも。実際に殺害していたのは、二人目の「BBK」のパトリック・・・しかし、用済みとなったところで清掃係によって首を切られて殺されてしまいます。三人目の「BBK」はリサで、スティーブに復讐していたのです。

カオス状態から脱出するため、ジェイミーは清掃係の頭をショットガンでぶっ放して粉砕・・・サラはリサをショットガンで撃ち殺します。ボーリング場から出てところで、サラは「あんたも最低!」と言い放ち、ジェイミーをショットガンで殺してしまうのです。

舞台をボーリング場のほぼ館内だけに限ったこと、実際にあるボーリング場でロケーション撮影したことにより、低予算で制作されていることは明白ですが・・・特殊効果メイクアップのグロさや下ネタのエロさは秀逸で、スプラッターエンターテイメントとして楽しめる作品となっています。ただ・・・残念なことに日本国内レンタル版は、性器だけでなくスプラッターな部分にもボカシ入りという仕様になっているので、本作を満喫するためには”輸入版”がオススメです。

ちなみに「悪魔の毒々ボウリング」の続編・・・「ガーターボールズ2:ボールズ・ディープ(原題)/Gutterballs 2: Balls Deep」が2015年に製作されています。テキサス・フライトメア・ウィークエンドというイベントで初公開されたようなのですが、現時点(2019年11月30日)ではDVD/ブルーレイ化はされていません。ただ”あの”アンアースド・フィルムス(Unearthed Films)が、プロットディガー・フィルムス(Plotdigger Films)から配給権を獲得したそうなので、近い将来ライアン・ニコルソン監督作品がブルーレイ版が販売されると思われます。


「ハンガー(原題)/Hanger」は、ドイツとオーストラリアで公開禁止となったということもあり・・・相当エグいゴアシーンが売りの一作であります。特殊効果を駆使したゴア描写だけでなく、倫理観を覆す内容には、思わず頭を抱えてしまうほどです。冒頭のプロローグに「トロマ映画」創始者のロイド・カフマンが女装姿でカメオ出演しているのも、マニアには見所かもしれません。

妊娠中で金を稼げない売春婦のローズ(デビー・ローシャン)は、ポン引きのリロイ(ロナルド・パトリック・トンプソン)から暴力的な取り立てをされており、お腹の子の父親のザ・ジョン(ダン・エリス)の手引きで逃亡しようと企てるのですが、リロイに見つかってしまいます。リロイは洋服ハンガーをローズの股間に突っ込んで、胎児を引っ張り出すという強引な中絶を行い、ローズを殺害。傷だらけの胎児はゴミ箱に捨てられてしまうのですが、ホームレスの男(ライアン・ニコルソン)によって偶然発見されて育てられることになるのです。

ハンガー(ネイサン・ダッシュウッド)の18歳の誕生日を機に、父親のザ・ジョンはホームレスの男からハンガーを託された後、ホームレスの男を轢き殺してしまうのです。ザ・ジョンの計らいで、ハンガーはゴミ処理場でダウン症のラッセル(ワデ・ギブ)と一緒に暮らして働くことになります。ザ・ジョンはハンガーの”筆下ろし”のために売春婦を連れてくるのですが、ハンガーの酷く傷ついた顔を見た途端に逃げ出してしまったので、彼女の頭をトラックのドアで何度も挟んで殺害してしまうのです。

ポルノ好きのラッセルと一緒にポルノ映画を見ていると、ハンガーは画面に母親ローズの姿を見つけます。そこに”エホバの証人”の宗教勧誘の女性が訪ねてきて、ハンガーは彼女を向かい入れるや否や、襲いかかって鋭い歯で彼女の胸に噛みつき、ハラワタを引きずり出して殺してしまうのです。

ザ・ジョンはポン引きのリロイに復讐を企てているのですが、売春婦(リロイの仲間)に裏切られて、リロイに拉致されて、拷問を受けることになります。意識を失った状態で放置されてしまうのですが、膣洗浄器を見張りの女性の鼻に突っ込み、なんとか逃げ出すのです。

その頃、ゴミ処理場の同僚のフィル(アラスティア・ギャンブル)は、ラッセルとハンガーに薬で意識を失わせて、サンタクロースのコスプレ衣装で強姦しています。ラッセルは普通にアナルを犯されるのですが、ハンガーは人工肛門を脇腹につけており、フィルは”あえて”便が漏れ出してくる人工肛門を犯すのですから・・・正気で観ていられません!その後、犯されたことに気づいたラッセルとハンガーは、ゴミ処理場でフィルを殺害して復讐を果たすのです。

ラッセルはゴミ処理場のオフィスで働くニコル(キャンディス・レワルド)に歪んだ思いを抱えていて、ニコルの使用済みタンポンでお茶を嗜んだりしています。ハンガーによって薬で意識を失わされたニコルを事務所で発見したラッセルは、ニコルの股間からタンポンを抜き取り持ち帰るのです。気を失ったままのニコルは、リロイに見つかり犯されてしまいます。意識を戻したニコルに、リロイはラッセルを誘い出すように脅迫・・・のこのこ現れたラッセルを、リロイはニコルのタンポンを口に詰めて殺してしまうのです。

ゴミ処理場でフィルの頭部だけを発見したリロイの前に、ザ・ジョンがいきなり現れて、二人は銃で相討ちして死んでしまいます。そして、ハンガーとニコルは、このゴミ溜めから何とか逃げ出すのです。コミ処理場を舞台に、登場人物全員がモラルが欠如した”クソ人間”で・・・同情も共感もできない衝撃的な内容で、個人的には、ライアン・ニコルソン監督作品ベストワンと言えるかもしれません。

これら初期三作品は、映画としては稚拙さは目立つものの・・・「血みどろスプラッター好き」「下ネタ悪趣味」「80年代オマージュ」が、”好きモノには好き”な世界観を貫いていており、ライアン・ニコルソンは(映画監督としての技術は???だけど)際立つ”作家性”の持ち主なのであります!

ライアン・ニコルソン監督のフィルモグラフィー


2004 トーチド(原題)/Touched(ビデオ中編)
2006 ライブ・フィード(原題)/Live Feed
2008 悪魔の毒々ボウリング/Gutterballs
2009 ハンガー(原題)/Hanger
2010 スター・ヴィエクル(原題)/Star Vehicle a.k.a Bleading Lady
2011 ファミン(原題)/Famine a.k.a. Detention Night
2013 デッド・ヌード・ガールズ(原題)/Dead Nude Girls(中編)
2014 カラー(原題)/Collar
2015 ガーターボールズ2(原題)/Gutterballs 2: Balls Deep


「ライブ・フィード(原題)」
原題/Live Feed
2006年/カナダ
監督/脚本/製作 : ライアン・ニコルソン
出演       : ケヴァン・オーツジ、タアイラ・マーケル、ステファン・チャング、コリン・フー、グレッグ・チャン、ロブ・スカッターグッド、キャロライン・チョニャッキ、アシュレー・スチャッパート、リー・ティション、マイク・ベネット、グレッグ・チャン、コリン・フー、テッド・フレンド
日本未公開


「悪魔の毒々ボウリング」
原題/Gutterballs
2008年/カナダ
監督/脚本/製作 : ライアン・ニコルソン
出演       : ダン・エリス、アラスティア・ギャンブル、ミホーラ・タージック、ネイサン・ホワイト、キャンディス・レワルド、トレヴァー・ジェンマ、ネイサン・ダッシュウッド、ワデ・ギブ、ジミー・ブライス、ジェレミー・ビランド、ダニエル・ムンロ、サラフィナ・バードュー、スコット・アロンゾ、ステファニー・スチャッター
日本劇場未公開、レンタルDVD


「ハンガー(原題)」
原題/Hanger
2009年/カナダ
監督/脚本/製作 : ライアン・ニコルソン
出演       : デビー・ローシャン、ダン・エリス、ネイサン・ダッシュウッド、ロナルド・パトリック・トンプソン、ロイド・カフマン、ワデ・ギブ、アラスティア・ギャンブル、キャンディス・レワルド
日本未公開



2019/10/22

「ミスター・グッドバーを探して/Looking for Mr. Goodbar」がDVD/ブルーレイ化されない理由は使用されている楽曲の使用権問題?・・・続編として製作された駄作テレビ映画「影の追跡/Trackdown:Finding the Goodbar Killer」


「シングルスバー/Singles Bar」は”婚活/恋活”と目的の、婚活パーティー、街コン、相席店などと並んで、独身男女の出会いの場として、今では日本でも浸透しているようです。出会い系アプリで、自己申告のプロフィールと詐欺画像を判断材料にして、いきなり見知らぬ者同士が出会うよりも、少なくとも本人を目の前にして話をするので、どちらかというと”オーソドックスな出会い方”ということになるのかもしれません。

シングルスバーが生まれたのは、まだエイズという病気も発見されておらず、普通に麻薬が蔓延していた1970年代前半のアメリカの大都市(ニューヨークやロスアンジェルス)・・・基本的には一夜限りのセックスの相手との出会い(ワン・ナイト・スタンド/One Night Stand)が目的で、女性には多少危険が伴ってはいたようです。ただ、女性が自分の意思でセックスの相手を探すことができるというのが、当時の”ウーマンリブ”の考え方と一致するところもあり、1960年代のヒッピーの”フリーラブ”以降の世代にとっては、新しい時代の女性の”性のあり方”を体現するオシャレな場だったのかもしれません。

日本でシングルスバーの存在が広く知られるきっかけとなったが、1978年に日本で公開された「ミスター・グッドバーを探して/Looking for Mr. Goodbar」という映画です。それまで日本では、アメリカの性事情としてシングルスバーを週刊誌が紹介することはありましたが、今のように誰も彼もがアメリカに行く時代でなかったので、一般的な日本人が実態を知ることは難しく、マスコミによって書かれた記事から想像するかありませんでした。「アメリカはセックスの本場!」なんて・・・今だったら問題ありそうなマスコミの書き方が多かったことが記憶にあります。そんな時代に公開された一作ということもあり・・・「これがシングルス・バーの実態!」と煽るような宣伝もされていたのです。


主演のダイアン・キートンは「ゴッドファーザー 」「ゴットファーザー Part 2」、ウディ・アレンのミューズとして「ボギー!俺も男だ」「スリーパー」「イディ・アレンの愛と死」などに出演して、日本でもよく知られていた女優であります。1977年4月「アニー・ホール」がアメリカ公開、同年10月に「ミスター・グッドバーを探して」がアメリカ公開、翌年1978年1月に「アニー・ホール」で第35回ゴールデン・グローブ賞最優秀主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞、同月「アニー・ホール」が日本公開、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている中で1978年3月に「ミスター・グッドバーを探して」が日本公開。その直後の4月には「アニー・ホール」で第50回アカデミー主演女優賞するという・・・「ミスター・グッドバーを探して」の日本劇場公開時には、”ダイアン・キートン”は映画女優としても、ファッションミューズ(「アニー・ホール」での着こなしがファッショントレンドに大きな影響を与えた)としても、新しい時代を象徴する「跳んでる女性」としても、非常に注目されていた存在だったのです。

「ミスター・グッドバーを探して」は、1973年に起こった殺人事件を元にしたジュディス・ロスナー著の長編小説が原作であります。殺されたロズアン・クインという23歳の女性は、子供の頃にポリオにかかったことのある聾唖学校の教師で、犯人の男性は自分の性的アイデンティティに(同性愛者であることを受け入れられない)問題を持っており、セックス中に勃起できなかったことを馬鹿にされたことに激昂して殺害に至った(犯人は裁判目前に自殺)そうです。ルポルタージュとしてジュディス・ロスナーが執筆したものを元に(多少の創作を加えて)長編小説に書き上げて1975年に出版・・・都会に暮らす独身女性の孤独を炙り出してベストセラーとなりますが、当時盛り上がっていた”女性の性解放”に水を差すようなところもあったかもしれません。また、ある意味1997年に日本で起こった「東電OL殺人事件」を先取りしていた印象もあります。ちなみに「ミスター・グットバー」とは読んで字のごとく「いいチンコを持った男」という意味合いで、ずばりシングルズバーで男を漁っている様子を表しているのです。


テレサ(ダイアン・キートン)は、聾唖学校の教師を目指して勉学に励む大学生で、既婚者のマーティン教授(アラン・フェイスタイン)と不倫関係にあります。子供の頃にかかったポリオ治療のトラウマと後遺症のコンプレックスを持っており、マーティンの理不尽な態度に振り回されても、一方的に別れを告げられても、自己肯定できないでいるのです。威圧的に支配する父親(リチャード・カイリー)から逃れるため、大学を卒業して教師の仕事を始めるのを期にテレサは実家を出て、マンハッタンでひとり暮らしを始めます。

姉のキャサリン(チュスディ・ウェルド)が、父親が誰だかわからない妊娠をしたり、出会って数日の相手と結婚してしまったり、麻薬とアルコールに溺れて夫婦で乱交パーティーに参加する乱れた生活を送っているのを、テレサは横目で眺めながら・・・シングルズバーで夜な夜な飲み歩きながら、昼間は聾唖学校で教えるという生活を送り始めるのです。経済的に恵まれない生徒の家庭訪問をした際には、市の生活保護課に務めるリチャード(ウィリアム・アザートン)という好青年と知り合い、時々デートをする仲にはなるものの、テレサが惹かれるのはシングルズバーの常連で危険な香りのするトニー(リチャード・ギア)で、彼とのセックスや麻薬にのめり込んでいきます。まだ無名だったリチャードソン・ギアなのですが、公開当時「この俳優は誰?」と話題になったもの・・・「アメリカン・ジゴロ」で一躍セックスシンボルとなる数年前のことです。

テレサの厳しい父親とも打ち解けて家族公認のボーイフレンドとなっても、テレサがリチャードを受け入れることはありません。ある夜、バーで偶然に遭遇したマーティンから、大学を辞めて離婚もしたと打ち明けられて「本当に愛したのは君だけだ」と甘い言葉を囁かれても、さらっとかわすテレサ・・・夜な夜な別な男たちとのセックスに明け暮れているテレサにとって、今更「愛なんて何なの?」なのです。トニーはテレサの部屋に忍び込んで麻薬と体を求めるだけではなく、金をせびったり、暴力を振るうようになってきて、そろそろ別れる潮時・・・一方的に縁を切ろうとするテレサに対してトニーは復讐を匂わしたりしてきます。トニーが警察に麻薬保持を密告して全てを失ってしまうことも、テレサの頭をよぎったりするのです。クリスマスのプレゼントを持って愛情を示してくれるリチャードを、冷たくあしらい一人でシングルズバーへ出かけるテレサ・・・それでもリチャードがテレサを諦められないのは執着心なのかもしれません。

ニューイヤーイヴの夜のシングルズバーで、尾行してくるリチャードをあしらうためにテレサが声をかけたのがゲリー(トム・ベレンジャー)という男・・・実は彼はゲイなのにガールフレンドを妊娠させたホモフォビアで女性嫌いという精神的に病んでいるのです。テレサの誘いに乗ったのも、ゲイのパトロンへの当て付けのようなところなのかもしれません。テレサの部屋でベットインしたものの勃起できないゲリーは、グズグズとベットに居座ったまま・・・そんな姿を嘲笑いながら追い出しにかかるテレサに、ゲリーは暴力的に強姦を試みます。リチャードからクリスマスにもらったフラッシュライトが点滅の繰り返す中、テレサを犯しながらゲリーは、部屋に落ちていたナイフを取り上げて、何度も何度もテレサを突き刺すのです。テレサは血だらけになって意識を失って死んでいく顔で、本作は唐突に終わります。まるで観客自身が、いきなり殺されてしまったような・・・”トラウマ”になりそうなエンディングであります。


当時「アニー・ホール」の好演で飛び鳥も落とす勢いだったダイアン・キートンは、特に”セクシー”なイメージではありませんでしたが、ヌードシーンを含む大胆な役柄に挑戦したこともあり、アメリカでも日本でも本作は大ヒット。救いのない物語という観点でも”アメリカン・ニューシネマ”の流れを汲んだ・・・1970年代後半の世相を描いた作品として語り継がれているものの、残念なことに現在では視聴できる機会が少ない作品でもあるのです。

「ミスター・グッドバーを探して」のビデオ(レーザーディスク?)は1990年代に発売はされたのですが・・・その後、DVD/ブルーレイでは発売されていません。暴力描写や性的表現はあるものの、現在の倫理観に反するわけではありませんし、本作以外では殆どヌードを見せていないダイアン・キートンが意図的に封印しようとしているわけでもないようです。どうやら、DVD/ブルーレイなどのデジタルメディアとビデオやレーザーディスクなどのアナログメディアとでは著作権の扱いが違うようで・・・デジタルメディアでリリースするには、改めて作中で使用されている楽曲の使用権を取り直す必要があるらしいのであります。

主題歌のマレーナ・ショウ「Don’t Ask To Stay Until Tomorrow」だけでなく・・・「ミスター・グッドバーを探して」には1970年代半ばのディスコ/フュージョンの名曲が劇中で効果的に使用されていて、どの楽曲も1970年代後半にディスコに行ったことがあるならば聞いたことのあるものばかり。ダイアナ・ロス「Love Hangover」、ドナ・サマー「Prelude To Love/Could It Be Magic」「Try Me I Know You Can Make It」、セルマ・ヒューストン「Don’t Leave Me This Way」、ボズ・スギャッグス「Lowdown」、コモドアーズ「Machine Gun」、オージェイズ「Back Stabbers」ビル・ウィザース「She Wants To (Get On Down)」「She’s Lonely」・・・歌詞の内容と物語がリンクしているところもあり、これらの楽曲”抜きで本作は成り立たないのです。サウンドトラックCDは1997年に発売されてはいるものの既に廃盤・・・今では貴重なプレミア盤となっています。どのアーティストまたはレコード会社かわかりませんが、何らかの理由で映画本編での楽曲の使用を許可していないため、再販は厳しいのかもしれません。

しかし、どういうわけか「ミスター・グッドバーを探して」のスペイン盤DVDは発売されているのです。アメリカ本国でさえリリースできないのに、何故スペインだけ可能なのは不思議なことなのですが・・・日本語字幕や日本語吹き替えなくても「ミスター・グッドバーを探して」をDVDで観たいという方は、音声は英語版も収録されているので、スペイン盤「Buscando al Sr. Goodbar」(PALなのでリージョンフリーのプレイヤーは必要)を探してみるのも”あり”かもしれません。


「ミスター・グッドバーを探して」から6年後、テレビ映画として制作されたのが、続編という位置付けの「影の追跡/Trackdown:Finding the Goodbar Killer」であります。ただし「ミスター・グッドバーを探して」の原作者ジュディス・ロスナーは、この続編を認めておらず、登場する人物の名前は変更されています。また、テロップで「ジュディス・ロスナー氏の原作とは無関係」と断っているほどです。「影の追跡」は、事件後の犯人の男と犯人を追うニューヨーク市警の刑事を描くという「ミスター・グッドバーを探して」とは似ても似つかない全く趣の違うドラマで・・・「ミスター・グッドバーを探して」ではなく、ロズアン・クイン事件の”後日談”ということのようであります。

ニューヨーク市警のジョン・グラフトン(ジョージ・シーガル)の家庭では、娘のエイリーン(トレイシー・ポラン)はサラキューの大学に入学するために家を出たいと言い出していたり、倦怠期を迎えていた妻ベティ(ジーン・デ=バー)との仲は冷え切っており離婚の話し合い始めています。そんな中、グラフトン刑事はメリー・アリス・ノーランという若い女性教師が殺された事件に関わることになるのです。メリー・アリソンの同僚だったローガン(シェリー・ハック)という女性とグラフトン刑事は、出会い頭には衝突するものの、次第にちょっといい雰囲気になったりします。

一方、メリー・アリスを殺した犯人のジョン・チャールス(シャノン・プレスビー)は、妊娠中の妻がいながら、アラン(バートン・ヘイマン)という中年男をゲイのパトロンにしているという自分勝手な男・・・殺害後、アランの手助けで妻と暮らすフロリダに身を隠しています。グラフトン刑事は当初、ジョンソンという黒人男性を犯人として逮捕するのですが、納得のできずに捜査を続けて、殺人現場に残されていたスケッチから怪しい男性二人組を見つけ出すのです。そして、アランにジョン・チャールスへ電話を掛けさせてメリー・アリスの殺人を白状させることで、見事に真犯人を逮捕するのです。事件が一件落着後、娘エイリーンは大学入学のため妻ベティと一緒に家を去ろうとしています。二人を見送るだけのつもりだったラフトン刑事は、唐突に車に乗り込んで二人と共にサラキューまで行くことにして、この家族の再生を匂わせて本作はエンディングとなるのです。

家庭に問題のあった刑事の家族の再生の物語を描きたかったのか・・・それとも殺人事件の真犯人を追うサスペンスを描きたかったのか・・・どっちつかずというか、どちらもしっかりと描かれていない作品で、何を目指して制作されたのだろうと頭を捻ってしまうほど。ジュディス・ロスナー氏が自分の原作との関わりを否定するのも当然だと思える「駄作」なのであります。

「ミスター・グッドバーを探して」は楽曲の著作権問題で・・・その続編的な「影の追跡」は出来の悪さで・・・2作品共に陽の目を見ることない作品となってしまったことで「ロズアン・クイン事件」そのものも人々の記憶から薄れてしまったようです。ただ考えてみれば・・・性に自由な女性が、不運な事件に巻き込まれてしてしまうことは、今では衝撃的なことでもない”よくある事件”なのですから、数ある事件のひとつになってしまうのは仕方のないことなのかもしれません。


「ミスター・グッドバーを探して」
原題/Looking for Mr. Goodbar
1977年/アメリカ
監督、脚本 : リチャード・ブルックス
原作  ジュディス・ロスナー
出演      ダイアン・キートン、アラン・フェイスタイン、リチャード・カイリー、チュスディ・ウェルド、ウィリアム・アザートン、リチャード・ギア、トム・ベレンジャー
1978年3月18日より日本劇場公開

「影の追跡」
原題/Trackdown:Finding the Goodbar Killer
1983年/アメリカ(テレビ映画)
監督 : ビル・パースキー
出演 : ジョージ・シーガル、シェリー・ハック、アラン・ノース、トレイシー・ポラン、シャノン・プレスビー、バートン・ヘイマン、ジーン・デ=バー
日本劇場未公開、CXで放映


 

2019/09/23

「クソ映画」と「カルト映画」の狭間・・・ノーマン・J・ウォーレン(Norman J. Warren)というサイテー映画監督~「Her Private Hell」「Loving Feeling」「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象/Satan’s Slave」「人喰いエイリアン/Prey」「ギロチノイド/Terror」「Spaced Out」「悪魔の受胎/Inseminoid」「ガンパウダー/Gunpowder」「タイム・ワープ・ゾーン/Bloody New Year」~


「カルト映画」というのは”一部の熱狂的なファンを持ち語り継がれている映画”だったはずなのですが、ニッチな商業性がビジネスとして成立することから、近年、広く使われる傾向にあります。公開当時は、ほぼ無視されたような「クソ映画」も年月経つと、誰かが「カルト映画」として注目し始めて、いつの間にか”お墨付き”がついたビジネスとして成立してしまうのです。時代の感性を閉じ込めたタイムカプセルとして機能することもありますが、どれほど年月が流れようとも映画としての完成度の低さは変わらない「クソ映画」というのも存在するのですが・・・。

1980年代末期というのはレンタルビデオの最盛期・・・当時ニューヨークに住んでいたボクも、数日ごとにレンタルビデオに通い映画を観まくっていた時期でもあります。数本同時に借りると割安だったので「なんだこりゃ?」という「クソ映画」がまぎれていることも度々あったものです。そうやって「うっかり借りてしまった」ビデオの中に、ノーマン・J・ウォーレン監督の作品あったかもしれません。


先日(2019年8月12日)、ノーマン・J・ウォーレン監督のホラー系代表作品5作品を2Kリストレーションしたブレーレイボックス「Bloody Terror: The Shocking Cinema of Norma J Warren, 1976-1987」が、イギリスで発売されたのです。「イギリスのニューウェーブホラー作家」という商品説明を読んで「あれ?観たことあるかも」と記憶が呼び覚まされて、あれほど後悔した経験があるにも関わらず・・・購入してしまったのです。

収録されている作品は「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象」「人喰いエイリアン」「ギロチノイド」「悪魔の受胎」「タイム・ワープ・ゾーン」の5作品・・・約30年ぶりに観てみると100%「クソ映画」ではあるものの、奇妙な”味わい”が生まれてもいるのです。このボックスの”売り”として収録されているノーマン・J・ウォーレン監督へのインタビューがあるのですが、事細かに過去のことを記憶しているのに感心するのと同時に、とめどなく早口で語り続けるテンションに「うんざり」させられてしまうのは・・・ノーマン・J・ウォーレン監督独特のお人柄でもあります。


映画好きの母親の影響で、映画界で働くことを目指した若き日のノーマン・J・ウォーレン監督は、裏方仕事をこなして経験を積んでいきます。映画監督を目指して制作した短編の自主映画で認められて、「ハー・プライベート・ヘル(原題)/Her Private Hell」という作品の監督を任せられることになります。「ハー・プライベート・ヘル」は、イギリス映画界初の”セックス映画”ということもありヒットします。”セックス映画”と言っても、一瞬のトップレスのヌードシーンとベットインの場面がある程度です。イタリアからやってきた若いモデルの女性が男たちの餌食になってしまうという物語なのですが、当時の風俗を取り入れた”タイプカプセル”として以外は、興味深いところがありません。


続く”セックス映画”二作目の「ラヴィング・フィーリング(原題)/Loving Feeling」は、既婚者のラジオディスクジョッキーの男が様々な女性と浮き名を流すという物語で、絡みのシーンが前作よりも増えたこともあり再びヒットします。カラー映画でもあり、サイケな風俗を感じさせるタイムカプセル的な作品にはなっています。いわゆる「セクスプロイテーション映画」ほど過激な描写はないものの、当時のフリーセックスのムードを取り入れて、一躍”ヒットメーカとなったノーマン・J・ウォーレン監督・・・しかし”セックス映画”専門監督になることには抵抗があったため、三作目の監督オファーは降板してしまうのです。ただ、そもそも監督としての実力を認められていたわけではないので、その後、映画製作の資金集めには苦労することになります。


自らの企画した映画が完成したのは、それから8年後・・・「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象/Satan’s Slave」とい”ハマーホラー映画風”の作品です。キャサリン(キャンディス・グレンデニング)と両親が叔父のお屋敷を訪ねると、謎の車の事故で両親が死去・・・キャサリンは叔父(マイケル・ガフ)の屋敷で保護されるものの、実は叔父一家は悪魔崇拝者で魔女カミーラの末裔であるキャサリンを生贄にしてカミーラを蘇らせようとするというのであります。舞台となるお屋敷の雰囲気はとても良いのですが、全体的にもっさりとしたノーマン・J・ウォーレン監督らしいテンポで、キャサリンの幻想と現実が混沌としていく中でのドンデン返しは”お約束どおり”・・・それほどの恐怖もサスペンスも感じさせません。ただ、最近復元された残酷シーンのいくつかは結構エグくて、ノーマン・J・ウォーレン監督の代表作として位置付けられています。


続く「人喰いエイリアン/Prey」は、宇宙人が動物や人間を襲うという「SFホラー」なのですが・・・・レズビアンカップルの関係が並行して描かれるという不思議な映画です。地球に食物探索にやってきた宇宙人(バリー・ストークス)はアンダーソンという人間の男性の姿となって、レズビアンカップルのジョゼフィン(サリー・フォークナー)とジェシカ(グローリー・アナン)の暮らす大きな屋敷の居候となります。ジェシカには以前シモンというホーイフレンドがいたようなのですが、二人の関係を支配しようとするジョゼフィンがシモンを殺したんではないか・・・とジェシカが疑い始めます。そんな問題を抱えたレズビアンカップルの前に、アンダーソンという男性の姿で現れた宇宙人が二人の関係を引っ掻き回すのです。ジョゼフィンの束縛から逃げ出したいジェシカは、一緒に逃げようとアンダーソンを誘惑するのですが、宇宙人の野生(?)に目覚めたアンダーソンはジェシカを食い殺し、ジョゼフィンも追い詰めてしまうのです。宇宙人が犬顔メイクだけという陳腐さで、相変わらず手抜き感が満載であります。レズビアンカップルに焦点を合わせるという不可解さは、ノーマン・J・ウォーレン監督らしさでしょうか・・・?


「ギロチノイド/Terror」は、ホラー映画の制作現場を舞台にした「サスペリア」もどきの魔女伝説のスラッシャーホラー映画であります。「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象」のスタッフを再集結して、倍以上の制作費をかけたにも関わらず・・・ノーマン・J・ウォーレン監督作品の中でも「クソ映画」度の高い一作です。昔、魔女を火あぶりにした一族の子孫であるジェームス(ジョン・ノーラン)が、ホラー映画の完成パーティーを屋敷で催しています。余興で睡眠術をかけられたジェームスの妹アン(キャロリン・カレッジ)は、何かに取り憑かれたようになってしまうのです。それから、次々とジェームスやアンの周辺の人々が奇妙に殺されていきます。ダリオ・アルジェント監督の作品の”まるパクリ”の殺人シーンや極彩色の照明を使ったジャーロ風の色彩は、センスのない演出とカメラワークでオリジナルに遠く及ばず・・・脈略もなく人々が殺されていくのは理解不可能。それでも公開時イギリスでは「サスペリア」っぽい雰囲気が受けてヒットしたというのですから、ノーマン・J・ウォーレン監督は侮れません。


1970年代にイギリスではセックスコメディ映画が多く制作されていましたが・・・「スペースド・アウト(原題)/Spaced Out」は、その流れに乗ったSF調のセックスコメディ(かなり後発ですが)であります。童貞の若者ウィリー(トム・メイデン)、中年男のクリフ(マイケル・ロウラット)、結婚間近のカップルのオリバー(バリー・ストークス)とプルデンス(リン・ロス)の4人の地球人は、スキッパー(ケイト・ファーガソン)、コシア(グローリー・アンメン)、パーサ(エヴァ・キャンデル)の3人の女性しかいない宇宙人の宇宙船に乗り込んでしまいます。男という存在に初めて接した宇宙人たちは、人間の男女のセックスに興味津々で、あれこれエッチなことを試してドタバタになるという予想通りの展開となるのです。宇宙人と地球人が普通に英語でコミュニケーションができるだけでなく、宇宙船内の機会やインテリアは地球と同じだし、女宇宙人もスパンコールの眉毛だけのメイクだったり、テレビのコント番組レベルのクオリティー。宇宙船に乗り込む場面は「未知との遭遇」をチープにパクっていて、制作年が「エイリアン」や「スーパーマン」が公開された1979年だったとは思えないほど、古臭いセンスが全編に溢れているのであります。


「悪魔の受胎/Inseminoid」は、明らかに「エイリアン」の亜流のSFスプラッターホラー映画です。ある惑星の古代文明の遺跡を調査している調査団・・・発見されたクリスタル石によって、隊員が凶暴な行動をとるようになったりします。さらに調査を続けるうちに、何かに捕らえられしまったサンディ(ジュディ・ギーソン)は、人相の悪い土偶みたいな宇宙生命体に犯されて、いきなり妊娠してしまうのです。「エイリアン」との大きな違いは、隊員たちを殺しまくるのは宇宙生命体ではなく、見た目は普通の人間のおばちゃん隊員のサンディというところ・・・なぜだか怪力になって襲うところは”モンスター映画”のようだし、時々意識を取り戻して助けを懇願したりするところは”悪魔憑き”っぽいし、死体の内臓を貪り食うところなどは”ゾンビ”みたいだったりします。そして、土偶のような宇宙人の赤ちゃんを出産した後も、相変わらず怪力を維持して暴れまくるのですから、何が何だかわかりません。結局、宇宙人の赤ちゃんによって残りの隊員も殺されてしまい、この惑星の遺跡に新たな調査団が送り込まれて、宇宙人の赤ちゃんの餌食になってしまうのであろう・・・というオチが待っています。ノーマン・J・ウォーレン監督作品の中で、唯一日本で劇場公開されている本作・・・それも1985年(制作されてから4年後)とは「エイリアン」ブームに便乗するにも遅すぎる謎のタイミングです。


「悪魔の受胎」から5年後・・・ノーマン・J・ウォーレン監督は「007」と「バディもの」をパクったような「ガンパウダー/Gunpowder a.k.a. Kommando Gold Crash」というアクションコメディ映画を作っています。ワイルドな”ガン”(デヴィット・ギリアム)とキザな”パウダー”の二人のスパイが、金の市場を暴落させて世界経済を崩壊させようとしているドクター・ヴァッチ(デヴィット・ミラー)の陰謀に立ち向かうというお話なのですが、まず、主人公の名前が「ミスター・ガン」と「ミスター・パウダー」でタイトルが「ガンパウダー」であったことに苦笑です。肝心なアクションは大雑把で雑な描写であっという間に終わってしまいますし、物語の展開は早いのに全体的にはダラダラした印象という相反する演出効果は、ノーマン・J・ウォーレン監督ならでは。練り切られていない脚本で、様々な出来事が唐突に起こるため場面展開についていくさえ困難・・・キャラクターの魅力を引き出そうという意図も空回りしていて、寒いセンスのセリフのやりとりに苦笑いさえできません。極めて完成後の低い映画に仕上がっています。


ノーマン・J・ウォーレン監督の最後の映画作品となる「タイム・ワープ・ゾーン/Bloody New Year」は、遊園地でトラブルを起こして、小舟で逃げた若者カップル3組が、ある島に漂着したところ・・・1959年の年末パーティーの時空の歪みに閉じ込められて、怪現象に襲われるというお話。ちょっと面白くなりそうな設定なのですが、さすがノーマン・J・ウォーレン監督・・・相変わらず訳の分からない演出が満載です。怪現象というのがセコくて・・・シャワーホースや掃除機が勝手に動き出したり、魚の網やテーブルクロスが襲いかってきたり、幽霊のような何者かに覗かれていたりという程度。映画スクリーンの中から飛び出してきたアラブの石油王に殺されたり、エレベーターの壁が伸びて襲われて壁の中に取り込まれてしまう・・・という謎の殺され方は唐突すぎ。また、他に襲ってくるのも、透明人間だったり、ゾンビだったりと、一貫性に欠けている上に、すぐにやられてしまうので恐怖感もありません。ポルタガイスト現象でグチャグチャになったと思ったら、逆回転で元通りになったりというのも意味不明。仲間がゾンビとして蘇って襲ってくるという何でもありの展開で、結局6人全員誰も小島から脱出することもできないという結末・・・1980年代にありがちだったスラッシャー映画としては後発になるのですが、あらゆるアイディアを安易に詰め込みすぎた「クソ映画」であります。

その後、ノーマン・J・ウォーレン監督は、劇場用の映画に関わることはなくなったものの、ミュージックビデオや教育用の短編の制作を続けます。2000年前後から再評価の流れが出てきて、イギリス国内ではホラー映画のスペシャリストとして認知されるようになったようです。年月が経つことによる”熟成効果”により「クソ映画」が、いつの間にか「カルト映画」として生まれ変わる・・・ノーマン・J・ウォーレン監督は、いつの時代になってもイギリスホラー映画界の”ニューウェーブ”(?)なのかもしれません。

「ハー・プライベート・ヘル(原題)」
原題/Her Private Hell
1968年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : ルチア・モデューニョ、テリー・スケルトン、ダニエル・オリアー、パール・キャトリン、ロバート・クリュードソン
日本未公開

「ラヴィング・フィーリング(原題)」
原題/Loving Feeling
1969年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : サイモン・ブレット、ジョジアーナ・ワード、ポーラ・パターソン、ジョン・ライトソン、フランセーズ・パスカル
日本未公開

「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象」
原題/Satan’s Slave
1976年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : マイケル・ガフ、キャンディス・グレンデニング、ジャームス・ブリー、セリア・ヒューイット、バーバラ・ケラーマン
日本劇場未公開、TV放映

「人喰いエイリアン」
原題/Prey
1977年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : バリー・ストークス、サリー・フォークナー、グローリー・アナン
日本劇場未公開、ビデオ発売

「ギロチノイド」(別題:ザ・ハウスⅡ/蘇えった300年・魔の秘密)
原題/Terror
1978年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : ジョン・ノーラン、キャロリン・カレッジ、サラ・ケラー、ジャームス・オブリー、グリニス・バーバー、メアリー・モード、ウィリアム・ラッセル、トリシア・ウォルシュ、パティ・ラヴ、ピーター・メイヒュー
日本劇場未公開、ビデオ発売

「スペースド・アウト(原題)」
原題/Spaced Out
1979年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : バリー・ストークス、エヴァ・キャデル、トム・メイデン、マイケル・ロウラット、リン・ロス、グローリー・アンメン
日本未公開

「悪魔の受胎」
原題/Inseminoid
1981年/イギリス、香港
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : ジュディ・ギーソン、ロビン・クラーク、ジャニファー・アシュレイ、ステファニー・ビーチャム、スティーヴン・グリブズ、ヴィクトリア・テナント、ロバート・ピュー
1985年2月23日より日本劇場公開

「ガンパウダー」
原題/Gunpowder a.k.a. Kommando Gold Crash
1986年/アイルランド
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : デヴィット・ギリアム、マーティン・ポッター、ヴィット・ミラー、デボラ・バートン、ゴードン・ジャクソン
日本劇場未公開、ビデオ発売

「タイム・ワープ・ゾーン」
原題/Bloody New Year
1987年/アメリカ
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : マーク・パウリー、キャサリン・ローマン、ジュリアン・ロニー
日本劇場未公開、ビデオ発売



2019/08/01

年金と生活保護で生き続ける”佐川一政”の「今」・・・兄を介護する実弟”佐川純”の「告白」~ドキュメンタリー映画「カニバ パリ人肉事件38年目の真実/Caniba」&佐川純著「カニバの弟」~


佐川一政がパリ人肉事件を起こしたのは1981年6月11日(ボクがニューヨーク留学する3ヶ月ほど前)・・・週刊誌やワイドショーで大騒ぎをしていたことは記憶しているのですが、発生直後には事件の詳細まで報道されていたという記憶はあまりありません。同年9月15日にアメリカへ移住したボクにとって、パリ人肉事件について詳しく知る機会は、それほどなかったのです。

1980年代、インターネットも日本語テレビ放送も限られていたので、アメリカに住んでいると日本国内で報道を肌で感じる機会はありませんでした。週刊誌や書籍などは、航空便で2週間後(定価の4倍ほどで販売)か、船便で2ヶ月後(低下の2倍ほどで販売)しかなかったので、貧乏留学生だったボクが手に入れることもなかったのです。それでも、1982年に唐十郎が芥川賞を受賞した「佐川君からの手紙」も、1984年に佐川一政自身が書いた「霧の中」も、航空便が日本語書店に並ぶと購入して読んでいたのですから、この事件についてボクは特に強い関心があったのだと思います。

その後、宮崎勤の猟奇事件をきっかけに、佐川一政がマスコミの寵児となっていく頃(1989年~)は、ボクは自分のニューヨークでの生活に精一杯で、日本で起こっていることに関心は薄れており、佐川一政のマスコミでの活躍(?)を知ることはなかったのです。佐川一政に関する書籍(本人が執筆に関わったものを含め)は両手に余るほどあったりします。近年になり、以前出版された佐川一政関連の書籍などを入手して、事件の詳細や佐川一政の活動を知れば知るほど・・・不快感に襲われつつも”佐川一政”への興味を抑えられないの自分もいるのです。

佐川一政の著作は共著も含めて・・・「霧の中」「生きていてすみません 僕が本を書く理由」「サンテ」「カニバリズム幻想」「蜃気楼」「喰べられたい 確信犯の肖像」「華のパリ 愛のパリ 佐川君のパリ・ガイド」「狂気にあらず!?『パリ人肉事件』佐川一政の精神鑑定(コリン・ウィルソン/天野哲夫共著)」「響 カニバル」(コリン・ウィルソン共著)「少年A」「殺したい奴ら 多重人格者からのメッセージ」「パリ人肉事件 無法松の一政(根本敬共著)」「まんがサガワさん」「霧の中の真実」「業火」「漫画 サンテ」「極私的美女幻想」「新宿ガイジンハウス」の18冊。

どれも”パリ人肉事件”の犯人当事者であるからこそ出版されたモノで・・・「人肉を食べた時の様子」と「人肉を食べたい欲望」について繰り返し繰り返し書かれているところから、全く反省していないのは明らかです。精神病院に入院させられただけで、実際に罰せられることもなく、自らが犯した罪で堂々と金儲けをしているというのは、犯罪史上でも珍しいと思います。

著書の中で特に酷いのは・・・「狂気にあらず!?『パリ人肉事件』佐川一政の精神鑑定」(第三書房/1995年)、「まんがサガワさん」(オークラ出版/2000年)、「霧の中の真実」(鹿砦社/2002年)の3冊でしょうか。

数々犯罪関連の著作で知られるコリン・ウィルソンと沼正三(家畜ヤプー)と同一人物と言われる天野哲夫との共著である「狂気にあらず!?『パリ人肉事件』佐川一政の精神鑑定」は、真面目な犯罪分析書という”体裁”だけど、逮捕後にフランス警察によって撮影されたルネ・ハルテヴェルトさんの切り刻まれた遺体写真を”修正なし”で収録したり、文化人(?)気取り自らで佐川一政自身が人肉食について解説しているのも、ただただ不謹慎でしかありません。

「まんがサガワさん」は、佐川一政自身が事件について描いたヘタ漫画とエッセイで、漫画を描いて事件を再現することで、犯罪当時の興奮を反復していているようで、なんとも気持ち悪いのです。下手くそな絵で描かれてはいるものの、殺害後にどうやって体を切断して食べたなどが細かく説明されています。いくつかのドキュメンタリー映画でも繰り返し本書は引用されており、内容が内容だけに出版されたこと自体に問題のある本です。なお、絶版だった「まんがサガワさん」は、「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」公開記念で限定1000冊が復刻版が再販されたり(すでに出版元のサイトでは完売)・・・再びの佐川一政ブームを見込んでいるようです。

「霧の中の真実」は、パリ人肉事件後フランスで拘束されてからの出来事を綴っているのですが・・・これまでに関係を持った女性の実名と写真(中には佐川本人と女性の局部結合写真まで!)を掲載するというトンデモナイ本であります。唐十郎氏が自分をネタにした「佐川君からの手紙」で芥川賞を受賞したのことが余程悔しいらしく、本書は愚痴と悪口のオンパレード・・・人肉食への欲望についても赤裸々に語っており、佐川一政の自己満足のために出版されたかのようです。

佐川一政についてのドキュメンタリーといういのは「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」が初めてではありません。

事件から僅か12年後の1993年に、イギリスのテレビ番組として制作された「エクスキューズ・ミー・フォー・リビング(原題)/Excuse Me For Living」は、著書から佐川一政自身の言葉を引用しながら(タイトルも佐川一政著の「生きていてすみません」に由来?)、佐川家の古いホームムービー、著書を朗読したりインタビューに答える佐川一政、抽象的な再現映像を織り込みながら、パリ人肉事件の犯人となっていく佐川一政の人生と人間像、そして日本国内でマスコミの寵児となっていく不可解さを解明しようと試みています。

「ザ・カニバル・ザット・ウォークド・フリー(原題)/The Cannibal Walked Free」は、イギリスのテレビ番組として、2007年に制作されたドキュメンタリーです。タイトルにある通り、殺人と人肉食いという犯罪を犯しながら罰されることもなく、一般人と同じように生活している佐川一政の日常生活を、事件の再現映像と報道された写真などを織り交ぜて”パリ人肉事件”のおさらいと、現在の生活ついてインタビューに答える佐川一政で構成されていて・・・”サイコパス”と診断される人物なのにも関わらず、自由な生活を営んでいることに疑問を投げかけています。

「エクスキューズ・ミー・フォー・リビング」「ザ・カニバル・ザット・ウォークド・フリー」ともに、佐川一政本人のインタビューを軸としながら、第三者的視点の存在があるのですが・・・2010年制作の佐川一政 人を食った男」は、事件報道映像や過去の書籍(「まんがサガワさん」)やビデオ映像を引用しながら、佐川一政自身の語りで”パリ人肉事件”振り返るという内容で、タブロイド紙的なノリ。「人肉食の欲望はなくなっていない」「美女に首を絞められて殺されたい」など佐川一政は言いたい放題・・・自分の犯した犯罪について全然反省してない様子に苛立ちを覚えるほどです。ただ、これが佐川一政がまともにインタビューに答えられる健康状態で撮影されたインタビューであり、2013年には脳梗塞で倒れて、その後は普通に話すこともできなくなってしまったので、ある意味、貴重な映像かもしれません。

1990年代・・・外国人女性と付き合うために金が必要になり質屋通いまでしていた佐川一政は、金欲しさでいくつかのビデオ作品に出演しています。

テリー伊藤が企画制作した1995年制作のオリジナルビデオ「私がパリで人肉をたべた理由 佐川君の一週間」は、佐川一政を茶化したバラエティで、MCを務めるのが若き日の爆諸問題なのですが、さすがの太田光のツッコミも引き気味だったりします。佐川一政の運動能力テストをしてみたり、就職活動の様子を隠し撮りしたり、人肉食いを茶化すような寸劇を演じさせてみたり・・・テリー伊藤の悪ふざけが暴走しまくりです。ボクが個人的に血の気が引いたのは、佐川一政が利用していた駅(たまプラーザ)が、ボクの実家の沿線だったという事実・・・結構、身近にいたんだと思うと、妙な気持ちになります。

1998年に”バズーカ”から発売された「実録SEX犯罪ファイル」は、佐川一政自身が企画を持ち込んで実現したドキュメント系のアダルトビデオであります。佐川一政と彼の犯罪経歴を知らない新人AV女優を24時間監禁して、エッチをした後に人肉事件を暴露して、彼女の反応を観察しようという”悪趣味”なもの。監督から出された唯一の約束事は、その24時間内に3発すること・・・「誰が佐川一政のエッチを観たいのか?」という疑問は置いといて、こういった企画が通ったのも、1990年代のAVが過激になっていった時代ならではかもしれません。

佐川一政は、体力不足ですぐにヘコたれるし、あれこれ細かい注文が多いし、とにもかくも自己チューなエッチしかできないのです。(まぁ、風俗では多くの男が、こんな感じなのかもしれませんが)クソみたいなエッチを見せつけられて、見ている側の方が情けなくなってしまうほどで・・・アダルトビデオの「抜く」という観点では全く機能しませんが、相手役をつとめた女優さん(里中ゆり/現・里見瑶子)が、佐川一政にイってもらうために一生懸命に尽くす姿には、ある意味の感動さえさせられてしまいます。実際、このビデオの撮影後、この女優さんと佐川一政は(エッチ抜きで)交際を続けたそうで、佐川一政自身が彼の歪んだ女性観を少なからず修正することができたということです。

さて、ドキュメンタリー映画「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」ですが、これは、今まで製作されたドキュメンタリーとは、全く異質の作品となっています。

極端なクローズアップと画面半分以上がボケているという映像は、まるで実験映画のようで、被写体以外の周辺環境は全くと言って良いほど画面には映されません。また、ポツリポツリと話す間の沈黙の時間が結構長かったりします。全く状況説明をするようなナレーションも入りませんし、第三者的な視点でパリ人肉事件について語ることもすることもありません。佐川一政という人物がパリ人肉事件を起こした当人で、その後罪に問われることなく日本でマスコミの寵児となったこと、そして現在は脳梗塞の麻痺が残り実弟によって介護されている・・・という知識がないと、何を撮影してるのかも分からないような映像なのです。

ここから「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」のネタバレを含みます。

「途中退場者続出!」が宣伝文句になっていますが、内容に衝撃を受けてというよりも、映画としてこの上もなく退屈(パリ人肉事件や佐川一政という人物に関心がない観客にとっては拷問レベル)だからと言った方が正しいような気がします。前出の「実録SEX犯罪ファイル」の映像をトリミングしたり、「まんが サガワさん」のひとコマひとコマを撮影したり・・・過去の映像や出版物から借用してタブロイド的な興味を満足させている”だけ”。わざわざ”佐川一政”の日常生活に1ヶ月も密着して撮影する必要があったのだろうか?・・・とさえ感じてしまいます。

ところが・・・後半、弟の佐川純氏が兄の佐川一政にも語っていなかった自分の性癖(フェチ)を告白をするところから、本作はトンデモナイ方向へ展開していくのです。

佐川純氏の性癖というのは、二の腕の自傷行為によって性的満足を得るというもの・・・映像的には(相変わらず)クローズアップと極端なボケ具合で、はっきり見えるわけではありませんが、初老の男性が”マスターベーション行為”として、二の腕に有刺鉄線を巻いたり、束ねた包丁を突き刺している様子は、なんとも気味悪い映像であります。佐川純氏曰く・・・射精までは至らないものの、勃起して先走り液が出るくらいは興奮するそうで、物心がつく3歳頃にフェチに目覚めたそうです。

弟の性癖のカミングアウトを聞いても驚いた様子もない兄・佐川一政に対して、どこかしら落胆したような態度になる佐川純氏・・・兄弟で「人肉食フェチ」と「自傷フェチ」の競い合いのようで、互いに自分のフェチに対して特別感=ナルシシズムを持っていることが露呈します。そして本作は、佐川一政ではなく兄を介護する弟・佐川純氏の物語でもあることが示されるのです。

終盤、いきなりメイド姿の中年女性が登場します。本作中に説明はありませんが・・・彼女は「実録SEX犯罪ファイル」で、佐川一政の相手役だったAV女優の里中ゆり/現・里見瑶子さんなのです。彼女の出演は明らかな”演出”。佐川一政は「こんな美しい女性にお世話してもらえるなんて奇跡だ」と喜びを隠しきれません。佐川一政は里見瑶子さんの付き添えによりアパートの部屋から出て、太陽の光に満ちた公園を車椅子に乗ってゆっくりと進みながら(この場面も顔のクローズアップですが)満足そうに「奇跡だ」と佐川一政が呟いて本作は終わります。

脳梗塞で半身不随になり生活保護を受けながら介護されている状況は、”幸福な晩年”とは言えないかもしれません。しかし、パリ人肉事件の罪を償うこともなく、罪に対しての反省をすることもなく、犯罪者であることで金儲けをしてきた人物が、まだ生き続けているだけでも多くの人は不愉快な気分させます。それなのに、過去に想いを寄せた女性をメイド姿にさせて再会させるという”演出”は、単に佐川一政にとって”いい思い”をさせてあげているだけ・・・非常に後味が悪いのです。

結局「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」で語られる”真実”としては、相変わらず佐川一政には罪の意識がないということ・・・そして、彼の弟の性癖”暴露という”下世話な真実”なのであります。

ここから書籍「カニバの弟」のネタバレを含みます。

ドキュメンタリー映画の公開に合わせて佐川純氏は「カニバの弟」を執筆・・・佐川一政の実弟であるという立場を”利用して”(?)自分のSM的な”性癖”の遍歴を綴るという本です。「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」では自分の二の腕への自傷行為に焦点が当てられていましたが、実際には女性の二の腕を縛り上げたり傷つけたいという”SMフェチ”の「S」だそうで、寒さに震えている女性に興奮するという”寒冷フェチ”も持っているそう・・・「だから何なんだよ~!」としか突っ込めません。自分のフェチを告白して「ボクって変態でしょ?」とナルシシズムに浸ってしまうところも、この手の人にとってはマスターべションのようで、ただただ気色悪いだけ。兄も兄なら弟も弟・・・と呆れるしかありません。

佐川一政と弟の佐川純氏にも興味を持つこと自体が不謹慎に思えてきます。佐川兄弟が38年経っても自分語りを続けるかぎり、パリ人肉事件の被害者ルネ・ハルテヴェルトさんは報われないような気がしてならないのです。

「エクスキューズ・ミー・フォー・リビング(原題)」
原題/Excuse Me For Living
1993年/イギリス(テレビドキュメンタリー)
監督 : ニゲル・エヴァンス
出演 : 佐川一政、コリン・ウィルソン(ナレーター)
日本未公開

「私がパリで人肉をたべた理由 佐川君の一週間」
1995年/日本(オリジナルビデオ)
企画 : テリー伊藤
出演 : 佐川一政、爆笑問題
国内販売セルビデオ

「実録SEX犯罪ファイル」
1998年/日本(アダルトビデオ)
監督 : 高槻彰
出演 : 佐川一政、里見瑶子(里中ゆり)
国内販売セルビデオ

「ザ・カニバル・ザット・ウォークド・フリー(原題)」
原題/The Cannibal Walked Free
2007年/イギリス(テレビドキュメンタリー)
監督 : トビー・ダイ
出演 : 佐川一政
日本未公開

「佐川一政 人を食った男」
原題/Interview with a Cannibal 
2010年/アメリカ(テレビドキュメンタリー)
監督 : サンティアゴ・ステーレイ
出演 : 佐川一政
ネット配信

「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」
原題/Caniba
2017年/アメリカ、フランス(ドミュメンタリー)
監督 : ヴェレナ・パラヴェル、ルーシァン・キャステーヌ=テイラー
出演 : 佐川一政、佐川純(弟)、里見瑶子
2018年8月6日、10日、26日、9月30日「イメージフォーラム・フェスティバル2018」にて上映
2019年7月12日より日本劇場公開/Amazon Prime Videoにて有料配信